ATERA PEOPLE 12
あてらperson12
大多喜屋 中田圭さん
一度は食べたい、大多喜屋のお弁当
出来立ての手作り弁当400円。このフレーズに惹かれない人がいるだろうか。
まず、安い。大手の量販店とほぼ同等の価格設定に驚く人も多いだろう。
さらに“出来立て”と“手作り”という言葉も気になる。調理されたばかりの温かいおかずとごはんが食べられるのか? そしてそれは出来合いではない手作りされたものなのか?
答えはどちらも「YES」。
しかも当日朝9時までに注文すれば、昼前には町内のどこにでも配達してくれる。配送料と消費税も込みで、日替わり弁当は400円、おかずもごはんもボリュームアップした大盛りは500円、おかずのみは300円。
にわかには信じがたいのだけれど、それが「大多喜屋」の弁当なのだ。
安くて、おいしくて、健康的で、毎日食べても飽きないもの
弁当を作るのは、店主の中田圭さん。
2年半前から大多喜で暮らす。以前住んでいた富津市で始めた弁当屋歴は現在7年目。
弁当の代名詞とも言える卵焼きでさえ、工場で大量生産された冷凍ものが売られる時代。「それはイヤだ」と自覚したことがすべての始まりのきっかけになった。
「日常の食を提供したいと思ったんです。安くて、おいしくて、健康的で、毎日食べても飽きないもの。それってなんだかわかりますか? ーーそう、家庭料理! 私が作るお弁当は外食ではなくて、家の食事の延長なんです」
毎朝6時に米を研ぐ。炊飯器のスイッチを入れ、下ごしらえしておいた副菜を仕上げ、卵を焼き、メインの肉か魚を調理する。
まるで家庭の台所を預かるお母さんのように。
捨てられる余剰野菜が旬を味わう惣菜に
本日の日替わり弁当、完成。
手ごねハンバーグに卵焼き1切れ、切干し大根の煮もの、わかめのきんぴら、菜の花のからしマヨネーズ和え、さつまいものみそ炒め、たくあん。そして炒りごまをふったごはんがぎっしり。
この「主菜+卵焼き+副菜の主菜+副菜3品+香の物+ごはん」が基本スタイルだという。
「菜の花は近くの農家さんからいただいたもの。間引いて捨てられるところだった余剰野菜なんです。形が悪い、虫食いがある、傷がついた。そういう売り物にならない野菜って実はたくさんあるんですよ。私はそれを引き取らせてもらってお惣菜を作るから、安さとおいしさが両立できる。地元で穫れた旬の味って格別でしょう?」
始めた当初より、今のほうが味も効率もずっといい
できた弁当を配達するのは夫・茂さんの仕事。
配達先と種類別に仕分けをして袋に詰め、車に積み込む。注文の多くは常連で毎日頼む人も多いそうだ。「楽しみにしてくれている顔を見るのはやはり嬉しい」と笑う。
現在大多喜屋では、弁当のほかに会食や祝いの席への仕出し、高齢者施設入居者への食事提供を行っている。
経験は何よりも強いというのが中田さんの実感だ。
「いくつになっても一生懸命やればやっただけ伸びる。弁当屋を始めた頃より、今のほうが味も効率もずっとよくなったと思います。だから年齢は重ねたけれど、体への負担はそんなに感じていないのよね。でも、ひとりでずっとやるのはもちろん不可能。だから今は『日常の食』を提供するシステム作りに力を入れています」
作る人も食べる人も豊かになる「スモールキッチン」
日常の食を提供するシステムとはどういうものか。
中田さんはそれを「スモールキッチン計画」と名付けている。
中央の大きなハブキッチンで作った料理を全国に配るのではなく、地域ごとに小さなキッチンをたくさん作って地産地消を進める試み。
具体的には「集団6次産業化」を指す。6次産業化とは1次産業の従事者が原材料の生産のみならず、食品加工や流通販売などの多角経営をすること。トマト農家がオリジナルのケチャップやソースを作り、独自に販路を確保して利益を得るとイメージすればわかりやすい。
これを大多喜で同時多発的に行い、各々のスモールキッチンの特性を生かした総菜をひとつ作るようにすると、それだけで弁当の副菜が出来上がる。つまり、自分が育てた野菜を生かしておかずを一品作るだけで、収入を得られるという仕組みなのだ。
作る人も、そしてそれを食べる人も、双方の暮らしが豊かになるーーこのなんとも魅力的なプランを実現すべく、中田さんは少しずつ準備を進めている。
年を取ったら寄り添って暮らそう
現在中田さんは夫と友人2人とともに暮らしている。同居歴は10年。今風にいえばシェアハウスだ。
「夫の定年を機に富津に移住すると決めたら、古い友人2人も一緒についてきたんです(笑)。昔の長屋ではないけれど、みんなで一緒に暮らすメリットは多いですね。経済効率がいい。困ったら助け合える。でも家族とは違うから、ほどよい距離感があるんです。他人同士だからこその配慮があるというのかしらね」
とはいえ誰かがしっかりとコンダクターを務めることと、運営のためのルール作りは不可欠だそう。数十年来の付き合いという佐藤英子さんは、大多喜屋の仕事も手伝ってくれるよきパートナー。この日は外出していた伊吹万里さんはカラオケ好きで、みなで連れ立って出かけることもあるという。
「私のモットーは『ひとりで立ってみんなで歩く』。スモールキッチンも我が家の暮らし方も考え方は同じです。寄りかからず、それぞれが自立しているからこそ寄り添うことができる。自分だけがよくてもつまらないでしょう。みんなで豊かさを分かち合っていきたいんです」
中田圭
1954年5月生まれ。秋田県出身。歌手や会社経営などさまざまな職種を経て、東京都杉並区から千葉県富津市に移住。2015年に大多喜に再移住し「大多喜屋」をオープンさせた。「花子倶楽部LLP(有限責任業務組合)」代表も務め、大多喜町の特産品であるたけのこを使用した「大多喜サルサ」などの製造販売も手がける。
大多喜屋
千葉県大多喜町桜台58
Tel: 0470-64-6448
